財政健全化に向けた議論を行う財務省の審議会が2日、来年4月に控える次の介護報酬改定を俎上に載せた。【青木太志】
「プラス改定をすべき事情は見出せない」。財務省はそう断じた。
介護報酬の引き上げが40歳以上の保険料、高齢者の自己負担に跳ね返ることを念頭に、「新型コロナウイルスが国民生活にもたらしている影響を踏まえれば、更なる負担増を生じさせる環境にはない。全体の改定率では国民負担を抑制すべき」と主張した。
介護施設・事業所の収支差率も紹介。一昨年度が3.1%、昨年度が2.4%と悪化しているが、「全産業の中小企業(昨年度:2.9%)と同程度の水準」との認識を示し、特に大きな問題はないとしている。
財務省は新型コロナウイルスの影響にも言及した。
経済の低迷で分野横断的に給与水準が下がっていること、介護職の有効求人倍率(今年8月:3.86倍)がやや低下傾向にあることを説明。「プラス改定で国民に負担増を求めてまで、介護職の処遇改善を更に進める環境にはない」と意見した。
介護施設・事業所への支援策については、「感染症による一時的な現象への対応であれば、介護報酬改定において恒久的な負担増をもたらす対応は適切でない」と指摘。仮に何らかの手を打つとしても、より深刻な地域、サービスに重点化した臨時の措置に留めるべきだと訴えた。
財務省はこうした考えを政府への提言(建議)に盛り込む方針。来年度の介護報酬改定にどれくらいのお金を投じるか、政府は年末に決定する予定だ。介護現場の関係者らは、目下の深刻な人手不足や厳しい経営環境を論拠にプラス改定を強く要請しており、これから駆け引きが激しさを増すことになる。
もっとも、財務省の今回の提言は少し控えめと言えるかもしれない。改定時は基本的に、国の財政事情や給付費の膨張を理由に介護報酬の引き下げを注文してくるが、今回はそこまで踏み込まなかった。いまや介護現場が“コロナとの戦い”の最前線となっているためで、その事実は今後のプロセスでも重要な要素の1つになりそうだ。