老後のお金・年金について

老後の生活費はどのくらい?

総務省の2018年家計調査報告によると、二人以上の高齢無職世帯(世帯主が60歳以上)の消費支出の月平均額は23万9,934円となっており、年齢が上がるにつれて減っていき、75歳以上では21万9,742円となっています。現役世代を入れた全体では28万7,315円なので、年金生活に入ると消費支出が減っていることがわかります。

では、具体的に高齢無職世帯のうち、高齢夫婦無職世帯(夫65歳以上,妻60歳以上の夫婦のみの無職世帯)の家計収支を見てみましょう。

年金は支払い損なのか。支払額と受け取れる額は?

最も多くを占めるのが食費であり、30%近い割合となっています。勤労者世帯の食費の割合は24%ほどなので、全体に占める割合としては高い印象を受けます。

次に多いのがその他の消費支出で22.8%となっています。その他の消費支出とは交際費や分類できない雑費などです。(孫へのプレゼントなどはここに入ります)

支出の費目としては、住居費や水道光熱費などの生活する上で絶対必要な支出とは言えない部分ですが、割合としては高くなっています。

その次が交通・通信11.9%、教養娯楽10.3%と続きます。自動車等関係費は交通・通信に含まれます。

住居費が1万3,625円(5.8%)とそれほど高くないのは、持ち家比率が高いことがあるようです。もし、老後に賃貸物件に住んでいたら、住居費の割合はぐっと上がるでしょう。

保健医療については、勤労者世帯が3.8%であるのに対し、6.4%と増えているのは、老化によって病気やケガのリスクが高まっていることを示しています。そして、年齢が上がるに従って保健医療費はさらに増えていくでしょう。

勤労者世帯と大きく異なる点は、教育費がほぼないことでしょう。その一方で、教養娯楽費とその他の消費支出は勤労者世帯よりも割合が高くなっています。
これは、定年後は時間がたくさんあるため、新たに習い事を始めたり、旅行に行ったりできることが影響していると思われます。

年金はどのくらいもらえる?

前述の家計調査によると、高齢夫婦無職世帯の消費支出(生活費)は23万5,615円となり、これに対して、収入は22万2,834円となっています。

そのうち年金(社会保障給付)による収入は20万3,824円です。年金以外の収入は、勤め先収入や、事業・内職収入、仕送り金などがあります。

こうした収入がすべて生活費に回せるわけではなく、非消費支出という直接税や社会保険料を引いて残った金額である可処分所得が実際の生活費にあてられます。高齢夫婦無職世帯の可処分所得は19万3,743円となっているので、

可処分所得(19万3,743円)-消費支出(23万5,615円)=-4万1,872円

月に41,872円不足していることになります。この不足分は預貯金などで補うことになります。

少し余裕をもたせて不足分を月5万円として、年間60万円。65歳から95歳までの30年間で計算すると1,800万円となり、政府が発表した老後資金に2,000万円必要という報告に近い数字となりました。

他のデータからも見てみましょう。厚生労働省による「厚生年金保険・国民年金事業の概況(2017年度)」では、年金の平均月額は国民年金が5万6,000円、厚生年金は14万7,000円となっており、厚生年金の夫と国民年金の妻を想定した場合、合わせて20万3,000円となり、先ほどの社会保障給付額とほぼ一緒ということがわかります。

年金だけで、他の収入がない場合、およそ5万円の不足となります。

老後資金の不安・悩みをFPに相談してみませんか?

年金だけで生活することは可能?

総務省の家計調査を基にすると、年金だけで生活をすると約5万円不足するということがわかりました。しかし、この家計収支はあくまでも平均値であるため、実態を表しているとは言えません。

参考までに、生活保護費を見てみましょう。

東京都(八王子市)に住んでいる70歳以上の夫婦の場合、生活扶助として11万円、住宅扶助として6万4,000円の合計17万4,000円となります。(※)
※厚生労働省「最低生活費の算出方法」を基に概算を出しています。

持ち家に住んでいることを想定すれば、住宅扶助はありませんから、最低生活費としては11万円となります。

この最低生活費とは、憲法の第25条で保障される「健康で文化的な最低限度の生活」を送るために必要な費用として、厚生労働省が毎年算定している生活費です。

夫婦二人、ギリギリの生活をしていくのであれば、11万円で可能ですが、生活保護の場合は医療や介護サービス、社会保険料等の負担はないので、この分をプラスしたとしても、年金が20万円であれば、充分生活できると言えるでしょう。

つまり、不足分の5万円というのは、教養娯楽のための費用および旅行や交際費など、彩りのある豊かな老後を過ごすために必要な費用と言えるのではないでしょうか。そしてこの5万円は決して贅沢ができるほどの金額ではないということも実感として理解できると思います。

豊かな老後のために今からできること

さて、ここまで見てきた老後の家計収支は、国が調査をした平均値です。実際の年金額は個々で違います。老後の生活費においても個人差があるでしょう。まずは年金がどのくらいもらえるのかを確認しましょう。

毎年誕生日月になると、日本年金機構からハガキ版の「ねんきん定期便」が送られてきます。誤って捨ててしまった、なくしてしまった場合でも、ねんきんネット(https://www.nenkin.go.jp/n_net/)から電子版「ねんきん定期便」をダウンロードすることができます。

これを見れば、これまでの加入期間と加入実績に応じた年金額を確認できます。

50歳未満と50歳以上では様式が異なっており、50歳以上の場合は、現在の加入条件で60歳まで継続した場合の見込額が記載されているのに対し、50歳未満では見込額の記載はありません。そのため、50歳未満の人が見込額を知りたい場合は、同サイトの「年金見込額試算」を利用するとよいでしょう。かんたん試算、質問形式で試算、詳細な条件で試算と3つの方法で確認することができます。

ねんきんネットでわかる年金額は公的年金のみなので、この他に企業年金や上乗せ年金、個人年金保険などに加入している人は、あわせて確認をしておきましょう。

将来もらえる年金額がわかったら、次は生活費です。今、何らかの方法で家計簿をつけている人であれば、月の生活費がいくらなのかざっくり把握できていると思います。

家計簿をつけたことがない人は、将来のためにも一度家計簿をつけてみることをお勧めします。今はスマートフォンで簡単に家計簿をつけることができる無料家計簿アプリがたくさん出ています。

ひと月の生活費がわかったら、老後の生活費がどのように変化するのかを確認してみたいと思います。
総務省の家計調査を基に、勤労者世帯と高齢夫婦無職世帯の家計収支を比較してみましょう。

老後は食費の割合が増えており、被服及び履物などは減っています。保健医療費は増え、教育費はなくなります。その他の消費支出の交際費が増えています。

物をそれほど買わない分、食費の割合が高くなる傾向があるようです。交際費についても、旅行や趣味の時間が取れることもあり、増える傾向にあるようです。消費支出は勤労者世代の75%程度と見てよいでしょう。

現在のひと月の生活費に75%を掛けた額が老後のざっくりとした生活費としましょう。これで支出がわかったので、先ほどの年金の見込額から非消費支出として15%を引いた金額、つまり年金額×85%を可処分所得とします。この可処分所得から生活費を引いた金額を出してみましょう。

(年金見込額×85%)-(現在の生活費×75%)=老後の生活費の過不足

マイナスであれば、不足分を今から老後資金として準備しなければなりません。
準備する額は、不足分×12ヵ月×30年間として計算します。

*不足する老後資金を準備する方法

さて、老後資金をいくら準備したらいいのか大まかにはじき出せたでしょうか。ここからは、老後資金を貯める方法および・不足分を減らす方法について考えてみたいと思います。

まずは、年金額を増やすことを考えてみましょう。
現在、企業にお勤めの方は、公的年金の上乗せとなる企業年金を検討しましょう。すでに加入している人も、確定拠出年金(企業型DC)では一定の範囲内で事業主の掛金に上乗せ拠出ができる「マッチング拠出」が可能です。年金額が増えるだけでなく、税制メリットも大きいのが特徴です。

個人型確定拠出年金(iDeCoなら、誰でも加入でき、自営業者であれば、最大で月6万8,000円まで拠出できるため、所得税の控除なども含めて、老後資金の準備としては非常に有効です。

自営業者などの国民年金第1号被保険者であれば、「付加年金」で年金額を増やすこともできます。国民年金の保険料に付加保険料として月400円上乗せすることで、将来受け取れる年金額に200円×納付月数分が毎年加算されます。

<付加年金を20年間行った場合>

・毎年加算される年金額
200円×12ヵ月×20年=4万8,000円
・支払った金額
400円×12ヵ月×20年=9万6,000円

つまり、2年で元がとれてしまうわけです。年金の上乗せとしては大変お得な制度です。

次に貯蓄です。確実に貯めるためには、先取り貯金をすることです。毎月決まった額を給料から天引きで積み立てていく方法です。安全資産としての預貯金も大事ですが、ある程度の金額が貯まったら、投資に挑戦してみましょう。安全性の高い投資信託をコツコツと長期間積み立てていく投資がよいでしょう。
最後に家計の見直しです。実はこれが一番大事かもしれません。
収入が思ったように増えていかないのであれば、支出を減らすことで解決できます。先述した家計簿アプリの多くは、分析ツールが備わっているので、これらを利用すればどこに無駄があるのかを知ることができます。
理想的な家計の支出割合と比較して、大きくずれがあるところが、その家庭における消費癖と言える部分です。そこに無駄がある可能性は高いので、改善へと持っていけるでしょう。

よく「一度上げた生活レベルは下げられない」などと言いますが、現役時代に高収入であった人ほど、支出も多く、その感覚のまま、定年を迎えると悲惨なことになります。厚生年金の報酬比例部分は、収入が多ければ、保険料も多く取られるため年金額が増えますが、納めた保険料ほどの割合では年金額が増えていかないため、現役時代のままのお金の使い方をしているとあっという間に老後資金が底をついてしまいます。

そのため、今から節約する癖をつけて、少しでも貯蓄にまわすことを意識すれば、老後資金の積み増しになるだけでなく、老後に生活レベルが極端に変化することもなくなるでしょう。

こうした家計の見直しは、すぐに実践できます。見直しの第一歩として、どこに無駄があるのかを見つけましょう。そのためにも家計簿をつけて、現状を把握することから始めてみてください。

家計診断をファイナンシャルプランナーなどの専門家に依頼するのもよいと思います。あと数年で定年になるという人も、もう遅いとは思わずに、今からできることを始めてみてください。節約癖をつけておくだけでも、老後の生活が違ってくるでしょう。

 

まさか自分が老後破産?

少子高齢化となっている日本では、若い世代への負担が重くのしかかってきています。

にもかかわらず困窮を強いられている高齢者が年々増加し、老後破産も増えていくと言われます。

老後破産は誰の身にも降りかかる可能性があり、決して他人事ではありません。

なぜ困窮している高齢者が増加する見込みなのか、次で説明します。

老後破産とは?

老後破産とは、老後に仕事を辞めたのちに貯金が尽きてしまい、貧困生活を余儀なくされることです。

一人暮らしの高齢者に多く、近年ではメディアでも多く取り上げられるようになってきました。

ただ、老後破産は急に増えてきたというわけではなく、1人暮らしをしている高齢女性の5割以上は、昔から相対的貧困状態であったと言われています。

これは、1960~90年代の女性の就業率が5割程度で、男性の9割程度と比較して低く、かつ非正規従業員だった率が高く、資産形成が難しかったことが背景にあると考えられています。

男女とも、生活に困窮している、いわゆる「下流老人」が増えてはいますが、特に女性の方が経済的な危機に陥るリスクは高いので、若いうちから対策に取り組んでおくことが必要です。

余計な保険に入り過ぎないことや、住宅ローンの返済計画をしっかり立てるなど、老後破産を避けるための工夫を考えておきましょう。

老後破産の原因

老後破産に陥ってしまう原因としてはさまざまなことが考えられます。

なかでも大きな原因のひとつが、金銭感覚を現役世代のままにしてしまい、その結果赤字が続いて生活が破綻してしまうということです。

現役時代よりも収入が減っているにもかかわらず、生活のレベルを下げられずに日用品や嗜好品を買い続けてしまうと、貯蓄はどんどん失われていくでしょう。

また、医療費や介護費など、心身状態の悪化に伴う支出が増えてしまい、それが家計を圧迫するということも、老後破産の原因となります。

大病を患うと、公的保険の適用を受けられる治療であっても、毎月数万円の出費になることもあります。

さらに「住宅ローンを払いきれない」という問題も少なくありません。

特に、住宅ローンを30代以降に組んだ人だと、ローンを現役時代のうちに支払いきれず、老後も負担し続けるというケースもあります。

その際、生活費のほかにローンも払うということになり、家計のやりくりが困難になるのです。

介護にかかる費用は月30万!?

先ほども少しお話したように、介護費による出費も老後破産の原因のひとつです。

では、実際に要介護となった場合、どのくらいの費用が必要なのでしょうか。

老人ホームに入るために必要な費用は?

老人ホームはタイプによって入居費用が大きく異なります。

一般的に、公的施設である特別養護老人ホームは費用が安めで、民間施設である有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅などは、費用がやや高めです。

入居にあたっては、入居後もずっと月額利用料を支払い続けられるかをしっかりと検討し、自分に合った施設を選ぶ必要があります。

ここで、経済産業省の報告書で想定されていた、

夫が84歳で死去、妻が89歳で死去し、夫婦とも亡くなるまでの5年間に要介護認定を受けていた。
夫婦の年金額は毎月20万2,000円、夫婦の生活費は毎月26万5,000円

という世帯をモデルにして、老人ホームに入居するときにどのくらいの貯蓄や資産が必要なのか考えてみましょう。