身近にある介護
2020.4.10
『殯の森』
◆Movie Infomation◆
■作品名:殯の森
■販売元: NHKエンタープライズ
■公開年:2007年
■発売日: 2008年4月25日
■製作国:日本・フランス
■配給: 組画
■上映時間:97分
■監督・脚本:河瀬直美
■製作総指揮:エンガメ・パナヒ
■出演:うだしげき、尾野真千子、渡辺真起子
介護の仕事に「こうせなあかんってことはないから」
奈良県東部の山間地にある旧家を改装したグループホームを舞台に、ここで暮らす軽度の認知症の男性と、新任介護スタッフの交流を描いた作品。「人は死んだらどこにいくのだろう?」というテーマを根幹に、遺されるもの、逝ってしまうものの間にある結び目のような空間として、奈良の緑豊かな自然の森が神秘的な美しさで、畏敬の念をもって描かれている。
グループホームで暮らす軽度認知症のしげき(うだしげき)は、亡き妻の想い出と共に静かな日々を過ごしていた。そのグループホームへ介護スタッフとして着任した真千子(尾野真千子)もまた子どもを亡くし、夫(斉藤陽一郎)と別れたというつらい過去を抱えながら生きようとしていた。無邪気な子供のようなしげきと真千子は、日々の生活の中で次第に打ち解けあっていく。ある日二人は真千子が運転する車で出かけることになるが、車が脱輪し、真千子が助けを呼びに行っている間に、しげきは車を離れて一人、深い森の中へと入っていく。真千子はしげきの後を追い、二人で森をさ迷ううちに、事態は思っても見ない展開になるのだった……。
淡々とした描写の中に緊迫感が溢れる不思議な映画だが、唯一ほっとして心が温まるのは、赴任したばかりで、仕事に不安を抱える真千子を主任の和歌子(渡辺真起子)が励ますシーンだ。「こうせなあかんってことはないから」という和歌子の言葉は、介護の仕事に携わるすべての人にとって救いであり、優しさが溢れている。と同時に、それがまた怖さにもなっていることを、この映画を観て感じてほしい。第60回カンヌ国際映画賞グランプリ(審査員特別大賞)受賞作。
<中条>
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